Organic Cotton
オーガニックコットンとは
綿花(わた)はあおい科のわた属で、あおい、ハイビスカス、オクラも仲間です。わた毛をぜんぜん持たないものが多く、野生種で20種類以上知られています。わたを作るのはアルボレウム、ヘルバケウム、バルバデンセ、ヒルスツムの4タイプが主流です。アルボレウムとヘルバケウムはインドを中心として栽培されてきました。バルバデンセ、ヒルスツムはアメリカ大陸が発祥と言われています。
オーガニック・コットン(有機栽培綿)とは、3年間農薬や化学肥料を使われていない農地で、農薬や化学肥料を使わないで自然のサイクルに逆らわずに生産された綿花のことです。一般的に、土中から農薬の影響が消えるのに約3年かかると言われています。ですから、オーガニックコットンを作ろうと決めた農家は、まず3年間、農薬を使わない土地を用意してやっと出荷できるようになるのです。栽培に使われる農薬・肥料については厳格な基準が設けられており、認証機関が実地検査を行っています。オーガニックコットンの主な生産国は、トルコ、アメリカ、オーストラリア、ペルー、インド、エジプトなど約17カ国です。綿花の生産は、赤道をはさんで北緯45度南緯35度の地域で、雨が少なく乾燥して、日照時間が長く、人件費が低い地域です。日本のように高温多湿な国は適していません。収穫量が低く、人件費は高くて採算が合わないこともあり、日本では、綿花栽培は発達しませんでした。また、製品となるための紡績、織布、ニット、染色加工、縫製などの製造全工程を通じて、化学薬品による環境負荷を最小限に減らして製造したものを、オーガニック・コットン製品といいます。オーガニック・コットンの製品化には、2つの考え方があります。どちらもオーガニック・コットンの栽培農家を支援し、消費増大をはかるという点では同じ考えですが、各企業の理念によって若干の違いがでてくるようです。1つは、農薬・化学肥料を使わないで栽培された綿花だから、その後の紡績から縫製までの製造工程でも、できるだけ化学薬品を使わずに製品化しようというものです。現在、オーガニック・コットンといわれている製品はこのタイプが主流を占めています。化学薬品による肌刺激がほとんどないので、肌の弱い人やアトピーの子供たちに愛用されています。もう1つの考えは、製造工程では、通常の綿製品とほぼ同じ加工を行おうというもの、あるいはオーガニック・コットンを通常の綿花と混ぜて製品化しようというものです。染色加工が通常の綿製品と同じであれば、表現が豊富ですから、たくさん販売できるのではないか、販売量が多ければ、たとえオーガニック・コットンが商品に何割か、あるいは数%しか使われていなくても、オーガニック・コットンの消費量は全体としては大きなものになるという考えです。
綿に使われる農薬や化学薬品
繊維製品の約3分の1を占めるほど需要の多い綿製品。食品と違って残留農薬の率は低いとされているにもかかわらず、最近オーガニックコットンが注目されている理由としては、「綿」が人間の作る農作物の中で最も高密度に農薬が使用されている作物の一つで、土壌や労働者の健康への影響が深刻だからです。オーガニックコットンを選択する意義は、もちろん肌に優しいのは言うまでもありませんが、労働者の健康被害の改善や環境保全にも大きく影響することなのです。大量の農薬とは、害虫を防ぐのはもちろん、コットンを収穫するためには、コットンの木の葉っぱを落さなくてはいけないので、そのための農薬なども必要だからです。もちろん、使われる農薬には国ごとに厳しい規制が設けられていますが、それでも土地に与える影響は多大です。
では、オーガニックコットンと通常のコットンの行程はどれほどの違いがあるのかを見てみます。1・土壌に対して…綿の場合、土壌を殺菌し、除草剤や化学肥料を使用します。化学肥料は収穫量を増やし面積あたりの効率化をはかります。短期的に見ると、化学肥料や農薬の使用は効率的に見えますが、やがて土壌環境はくずれ、微生物は生きられなくなり、自然な循環による回復力がなくなって、やせた土地に変貌してしまいます。化学農薬漬けの畑は土が固く引き締まってやせてゆきます。一方、有機綿の場合は、化学肥料の代わりに野菜のくずや家畜の糞などを土と混ぜ堆肥を作ります。豊かな畑の土壌には、スプーン一杯の土の中に10億もの微生物が存在しています。この微生物を排除するのではなく生かす農法です。微生物がよく働いている畑は、土がふかふかしています。2.雑草に対して…綿の場合、除草剤を散布して雑草を枯らします。有機綿の場合、耕耘機で土を掘り起こし、雑草を土に埋めたり、必要ならば刈り取ったりして除草します。3.害虫に対して…綿の場合、強い殺虫剤を散布します。世界中の畑で撒かれている殺虫剤の4分の1が綿畑だけで使われているという、信じ難い報告もあります。有機綿の場合、化学合成された殺虫剤は使わず、綿花に付く害虫を食べる「益虫」を放ち駆除したり、虫が嫌う植物の臭いのエキスを撒いたり、ニンニク,唐辛子などの刺激臭のある植物を綿花畑に植えたり、糖分が豊富で虫が好む植物を畑の周囲に植えて虫をそちらにおびき寄せたり、夜間に電灯を付け害虫を集めて網で捕獲するなど、古来の様々な方法を駆使して害虫対策しています。4.収穫時…綿花収穫の方法は、世界の収穫量の70%がアメリカ、オーストラリアなどの先進国で行われる大型機械によるものです。機械一台で、手で摘む人の70〜80人分の働きをします。人件費の高い国では到底手で摘む方法は採算に合いません。機械で刈り取る場合は、綿の木の高さを一定にしなくては効率が悪くなるので、そこで成長調整の農薬が使われます。また綿花が収穫できる9月頃は、葉や茎はまだ枯れる時期ではなく、青々としていて、そのまま刈り取ると、湿気の問題や、葉の葉緑素がつぶれて汁が綿に付着し品質を落とすことになります。
そこで、収穫時期から遡って枯葉剤を撒布しておき、あらかじめ葉や茎を枯らせています。有機綿の場合は、枯葉剤を使用せず、綿花を手で摘み、青々とした畑の中で収穫作業を行なっています。または霜が降り、葉が自然に落ちるのを待ってから収穫します。5.糸から布へ…綿の場合、パラフィン、合成ワックスや分解されにくい化学合成糊をたくさん使います。
有機綿の場合…除去しやすい天然ワックスや分解されやすい澱粉(デンプン)を主体に使います。6.染色から仕上げ…綿の場合、苛性ソーダ、硫酸、塩素系漂白剤など、地球環境に負荷をかける薬品をたくさん使います。重金属を含んだ薬品が使われることもあります。有機綿の場合、染料は厳しく制限されていて、皮膚を刺激するカチオン系柔軟剤も使用禁止です。ホルマリンの発生源となる薬品は使いません。
綿農業者たちの現状
自由経済は自由競争が基本ですから、より良いものをいかに安く市場に出せるかが勝負です。消費者は当然のこと良くて、安い物を求めるからです。安く売るためにはまず、コストを低くするしかありません。綿花農場は、人件費や運営費が安い経済後進国の労働力を利用しています。現地の経営者は採算を合せなくてはならず、従業員への支払いを切り詰めます。労働環境も劣悪な場合が多いのですが、それでも他に働く場がなければそのまま甘んじなければならないのが現実です。インド、アフリカの綿花農場は一般的に貧困地域です。そしてさらに、イギリスなどのコットンを買っていた国が、農薬等を使った方が効率的だし農薬や化学肥料も売れて儲かるからと、現地の農場主を巻き込み、農家の人達にそう指導したり、農場の有力者は、農薬の会社から何らかの金銭を受け取り、農民に化学肥料や殺虫剤などの農薬を使って農業をするように指導していきました。農民は栽培を始めるとき、農薬を買う資金がないため、まず借金の形でスタートします。そうして買わされた農薬を使っていましたが、器官支系や呼吸器系の病気になる人がたくさん出てきました。農薬の害の為に働けなくなった夫を持った妻は、子育てをしながら農作業を行うという悲劇的な状況になります。さらに収穫が終わると仲買人に作物を売り、借金分を差し引いたわずかな金額しか受け取ることが出来ません。一見のどかに見える農村風景ですが、一歩農民の人たちの立場に立ってみると絶望的な苦しい現実を知らされるのです。
そこで1992年から、スイスのリーメイ社とスイスコープが中心となって、インドとアフリカにおいて農薬を使う従来の農業からオーガニックコットンの農業への転換を行ない、労働者が貧困から脱する運動を進めてきました。農民の生活改善プロジェクト「ビオレプロジェクト」です。ひとたび有機農業に転換すると、農民たちは化学肥料はじめとする農薬を仕入れることはなくなり、そのかわり豊かな土壌作りに励みます。生えてくる雑草をむしり、土を混ぜ合わせて空気を入れ、牛の糞や野菜くずなどの堆肥を混ぜて栄養を付けます。楽な作業ではありませんが、借金というマイナスのスタートではありません。綿花における有機農業指導員のアドバイスを受けながら、害虫対策、除草対策を進め、秋に綿花を一つ一つ手で摘んで収穫します。収穫された綿花は、オーガニックプロジェクトが、一般の綿花相場の最低でも20%上乗せの支援価格で買い取ります。農民の人たちは、それがまるまる収入になります。農薬の害もなく晴れ晴れと元気に収入を得てることができ、家族の生活は一変します。数年で農業指導員になった農民たちは、希望と誇りに満ちた様子で働いているそうです。
このように、オーガニックコットンの認証の基準のなかには、既に農業者の権利を守る項目があり、フェアトレードの取引が基本になっています。NPO法人日本オーガニックコットン流通機構(NOC)は、インド、アフリカ、ペルーで行われている貧困救済のプロジェクトを支援しています。
世界でコットン生産に占めるオーガニック産業の割合は、まだ0.1%でしかありませんが、大手メーカーや流通業がオーガニック製品の導入を始めているため、今後のシェア拡大は期待されています。96年、世界のアパレルメーカーの中で最も早くすべての綿製品を100%オーガニックに切り替えたのは、アメリカのアウトドア・スポーツ衣料品等の有名メーカー、パタゴニア(アメリカ・カリフォルニア州)でした。その後02年、ナイキも、製品の一部にオーガニック綿を採用するようになりました。
多くの人がオーガニックコットンの服を着るようになれば、それだけオーガニックコットンの消費量が増え、栽培量も増えます。そうすると、地球にやさしい製品も増えていきます。しかし結局、一番大切なことは生産・加工・流通に携わる人々の思いと、私たち消費者の思いが、最低限の生活ができていれば幸せであり、あとのすべてのことはおまけの楽しみだという共通認識を持つことだと思います。サークルでも、おまけの楽しみを多くご紹介していくなかで、世界の国々の生活、生産者の生活などの情報もお送りし、楽しく想像したりいろんな事を考えるきっかけになればと思っています。オーガニックコットンも、皆さんからのご要望が有れば今後取り扱っていきたいと思います。皆さんからの、ご意見ご感想など、お待ちしています。